シンガーソングライター改めマスターコーヒーロースター
歌い手が曲を奏でるには、歌詞・音楽・歌唱と制作し楽曲を披露する中で、それぞれの専門が担当し作り上げていく場合と、全てを一貫する方々がいる。
それと同じように、コーヒー業界にもそれぞれの分野を担当し、お客様に届けるまでの流れの中で、焙煎・抽出・提供を一貫しシンガーソングライターのように全ての役割を担いながら、自身とお客様への想いを伝える手段を大事にしている人達がいる。
喫茶やカフェで過ごす場が、コーヒーが中心というよりも、コーヒーを介し、どのような時間を過ごすかが主軸になることが多い中で、お客様にはその一杯が「たかが」で良い時と「されど」と捉える時があるのは確かなのだろう。
それでもここ10年ほどで、品種や土壌など農家さんの意識や品質の向上を含め、その市場はクオリティを求める傾向にあり、農作物としてコーヒーチェリーが改めて果実として着目されれば、その実であるカスカラからコーヒーシロップが作られるようになり、さらには一般的だった三大精製方法から、新たにハニープロセス(スマトラ式)が注目されたり、アナエロビッグ(発酵)が工程化され、独特なフレーバーを生豆自体に浸透させる製法まで生まれてきています。
カップに注がれる液体になるタメに、生産者の思いや意図が幅を広げ出し、またそれらを口にするお客様の驚きや笑顔のタメに改良を重ねる海の向こう側の働き。
作者となる私達はやはり、そのプロセスも大事に、同じ空の下で関わる者として、生産者と自身の想いを反映させていくべき繋がりが生まれ始めているのかもしれません。
焙煎という作業を調理として考え、抽出という作法を盛り付けとして位置付けカップの中に至り、カウンターに立つ役目を演出と捉える。
これからコーヒー業界というのは、誰が生産し、誰が焙煎をして、誰が抽出しているのかという部分に着目される時代が来るのかもしれない︙。
そしてそのコーヒーを何処で飲むのか、誰と飲むのかもにも価値が生まれ、その液体がより意味を成していけば素晴らしいことなのかもしれません。
私も最近は、他のお店の方々と焙煎や抽出について、またお店という存在について、いろいろな方々と意見交換や技術向上などの談義に花を咲かせる時間も増えて参りました。
カップに注がれ漂う香り、そしてそれを口に含んで広がる味わいのハーモニー。
それらを感じることによって息つき抱く BGMのような心地良さや、安心感に高揚感はまさに『飲む音楽』と賞するほど私は大切に思っています。
コーヒーというカテゴリーでは同じでも、喫茶やカフェというジャンル、そして誰が焙煎し、誰が淹れたかだけでも同じと感じる事の少ない魅惑の液体。
その正解のない終わりのない方程式を解きながら、自分自身との答え合わせを、これからも重ねていくのでしょう。
編集部
奥野 薫平