東京喫茶店研究所二代目所長『難波 里奈』さんが繋ぐ喫茶店の未来。
プロフィール 『難波 里奈』 東京喫茶店研究所二代目所長。
時間の隙間を見つけては、ひたすら純喫茶を訪ねる日々を過ごし「昭和」の影響を色濃く残すものたちに夢中になりながら、当時の文化遺産でもある純喫茶の空間を日替わりの自分の部屋として楽しむようになり、その数は今や2000軒以上に及ぶ。
ブログ「純喫茶コレクション」から始まり、純喫茶にまつわる書籍は現在12 冊。
最新著書としては 2023 年 8 月発売『純喫茶とあまいもの 名古屋編』(誠文堂新光社))。
純喫茶の魅力を広めるためマイペースに活動中。
大学生時代から、昭和の古着やインテリアが好きだった彼女が興味を持ったものは、その時の「流行」ではなく「昔ながら」の雑貨や家具、そしてそれらを纏う喫茶店だった。
好きなファッションに身を包み訪れる場所を想像した時に、自分の心ともリンクしてくれたのが、昔では何でもない純喫茶。
そんな彼女がワンピース姿やベレー帽を被って足を運んだお店には、居心地や安心感を得るヒトトキが連続し、彼女はまたたくまに喫茶店の虜になっていった。
以前は当たり前のように、内装や食器にも店主のこだわりが反映され、個性豊かな「場」の楽しみも含め訪れる人への刺激を与えている部分が多かった。
今や無機質やシャープさの中に「映え」を輝かせるタメにテーブルの上を彩るだけの空間とは違い、店主の人柄さえも覗えた店の数々は、彼女だけではなく多くの人達の記録のタメだけではない、記憶の中に残るコトでその価値を高めていたのだろう。
そんなお客様とお店の関係や佇まいが、現代では珍しくなっていき、人々は現状、飲食店でも感じることの出来る「肌感」や「質感」で得る心の豊かさを見逃してしまっているのかもしれません。
難波さんが自身の足で沢山のお店を開拓されていく中で、その思い出を記し残そうと始めた『純喫茶コレクション』というブログがある。それを見た出版編集者の方から書籍化の提案がなされ、難波さんが残し続けてきた想いが単行本化されたのである。
さらには、純喫茶の魅力に迫るきっかけをもたらしてくれた「東京喫茶店研究所所長」沼田さんが、本の装丁をされる事となり、そのやり取りの中で肩書きを譲り受け「二代目所長」に就任されたのです。
今や難波さんは、数々の書籍の出版に結びつけると共に、雑貨の制作や自らが喫茶店の魅力を伝えるべくイベントを開催したりと企画のプロデュースにも携わるほど、インフルエンサー的な役割も担っている。
難波さんは日常を過ごしていく中で、予てから「好きなもの」と向き合いながら、好きで居続けるタメの距離を保って活躍の幅を広げているのです。
そしてそんな彼女は、喫茶店の素晴らしさを伝え続けながら、確実にファンを増やしながらも、独りとして発信するのではなく、フォロワーさんに対しては勝手ながらに(笑)所員と位置付け、喫茶好きの方々と同じ立ち位置で交流を図っているのです。
また、自身の活躍に囚われるのではなく、一番はお店や店主との関係性を重要視し、その店舗に少しでもお客様の足が向くようにと物語を作って、沢山の方々に何よりも「体験」をしてもらう事に重きを置いているのです。
私達自身も、やはりお店に来てもらう事で喜びを感じ、そして「また来よう」と思ってもらえる間柄を築き上げていくことが何よりも大切だと思っています。
毎日でも来て下さる常連さんには誰よりも感謝ですが、定期的や不定期ながらでも足を運んでもらえることほど嬉しいことはありません。
それは何故かと言えば、言葉を交わすことが無かったとしても、顔を合わせたり覗えたりすることで、その人の長い人生の中で考えればほんの一瞬でしかない止まり木の時間に立ち会えているからなのです。
文章を読む中で大事な句読点のように、人の歩む道にもきっと、つなぎ合わせたり立ち止まったりする休息が必要不可欠なのだと思います。
そんなヒトトキこそが、大きな喜びには結びつかなくても、振り返った時に、小さな幸せを感じることの出来る思い出やドラマに繋がっているのかもしれない。
そう思うと、私達のお店は同じような毎日に感じてしまう月日の中でさえ、欠かすことの出来ないかけがえのない「経験」を育んでいるからなのかもしれません。
新しいお店もそうですが、長く続いているお店ほど難波さんはその存在意義を共有したいと願っています。
それはお店や店主の努力だけではなく、難波さんや各々のお店を好んでくれているお客様によって存続していく価値を高めているからだと思います。
そのようなお互いの関係性が、普段何気なく街に光を灯しているだけかもしれないお店に、誰かによっては輝きを感じる光景に繋がっているからなのかもしれません。
今日も何処かのあの場所で、難波さんは席に腰掛け微笑みの時間を楽しんで居られることでしょう。
そしてその店の店主と隣り合わせになる事で、私達は見えない糸で繋がり、人々の人生が交差する空間で、お互いの糸を絡み合わせながらヒトトキを共にしているのです。
編集部 奥野 薫平